2013/08/18

TOTO LE HEROS[1991]


君は私の人生と愛を奪った おかげで私の人生は空っぽ




















邦題:トト・ザ・ヒーロー
監督:ジャコ・ヴァン・ドルマル
出演:ミシェル・ブーケ、トマ・ゴデ、クラウス・シンドラー etc...



老人ホームで暮らすトマは、自分が産院の火事のどさくさで向かいに住む裕福な家のアルフレッドと取り間違えられたとずっと信じてきた。
彼は回想する。幸福を奪われた自分の人生を。
父が死に、愛する姉さえも失ってしまった。
人生の佳境に入った今、自分の人生を取り戻すためトマは復讐を決意するのだが…




誰にでもあるのではないだろうか。
もしも、自分の人生がこうだったら、ああだったら…と考えることは。
なりたかった人生を想像し、一瞬の幸福に浸ることも、
自分よりも優れた人間を羨ましく思うことも当然あると思う。

それは別段、悪い事ではない。
しかし、本作の主人公トマは年老いてなお、
幸福だった少年期の思い出に囚われ続けている。

自分の人生を否定し、他人を恨み続け、妄想にふける。
想像の中で、憧れの名探偵トトに自分の人生の全てを委ね、
けれど現実では何をするでもない。

妄執に囚われた老人の、何て不毛で憐れな人生なのだろう。


陽気な『ブン』の歌をBGMに、物語は緩やかに深く進んでいく。


トマの人生には、常にアルフレッドの影がつきまとう。
トマと正反対のように見えるアルフレッド。
裕福で、何でも持っている彼。
トマは願っていた。アルフレッドと入れ替わりたいと。

一言で言えば、隣の芝生は青く見える、ということなのだけれども。
そう片付けてしまうには、二人の人生はあまりにも重い。

トマの姉アリスを中心に絡み合ってほどけない二人が、
その全てのしがらみから切り離されるとき。

 辿り着く先は、切なくも爽快である。


劇中にある詩がすばらしい。

燃え尽きよ短いろうそく
人生はうつろな影法師
この世の舞台であがき苦しみ
やがて消え去る
人生は愚か者の語る物語
響きと怒りに満ちて
意味など何もない


意味を求めて生きてきた老人の、最後の舞台。

死を前に、トマは初めて自分の人生を肯定する。
過去から脱却し、彼は本当の人生を生きる。

悲劇が、喜劇に変わる瞬間だ。


真実を知ったとき、人は本当に優しく、強くなれる。

誰に奪われたでもない、自分自身で奪っていた人生。
失った時間を取り戻すことはできないけれど、
最後の最後にトマは本当にトト・ザ・ヒーローになれたのだ。


あらすじだけ見ると、暗く詰まらない映画に思うかもしれないけれど、
実際は軽やかに物語は進んで行く。
見終わって疲れる事もなく、爽やかな後味。

そして、この作品は伏線が見事。
最後まで気づかず、不意打ちを食らって泣いてしまったよ。

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