2013/04/10

スシ、フジ、ハラキリ


私の学校は、生身の人間をモデルに絵を描いている。
週5日、1日5時間、同じポージングで何ヶ月もモデルさんは立っていてくれる。
この素晴らしい忍耐力に、まずは称賛を捧げたい。


話は、一、ニヶ月前に遡る。

前々から気になってはいたが、モデルさんがやけに熱い視線を送ってくる。
名は仮にアレクとしよう。
ポージングの最中、休憩時間などなど視線を感じるのだ。

最初は思い過ごしか自意識過剰だと思った。
けれど、やはり視線を感じる。

堪らず私も熱い視線を送り返す。
その、皮膚の下の筋肉の下の骨まで見透かす勢いで。

とある日の授業終わりのことである。
心なし神妙な面持ちのアレクが私に声をかける。

「サヨナーラ」

ん?
聞きなれない単語に一瞬耳を疑う。
朧げな記憶を頼りに知っている限りのロシア語を思い浮かべるが、しかしどうしても思い出せない。
どっかで聞いたことがある気がするのに。

暫し、考えに思いを馳せているとアレクがもう一度言う。

「サヨナーラ」

今度は手を振りながら。

あああ!!!
驚いた顔をしたら、満足したのかニヤリと笑いアレクは去っていった。

とっさに返事を返せなかったのを申し訳なく思ったので、明日は私も「サヨナーラ」と言おうと心に決めた。


次の日のことである。

私は少し早く学校にたどり着いた。
先生はまだ来ておらず、教室の扉も空いていない。

寒いドアの前にはいつも早く来る生徒と、アレクの二人。
доброе утро(おはよう)」といつものように挨拶をする。

すると、おずおずとアレクが近寄ってきて一言。

「コニチゥワー

ん?
聞きなれない単語に一瞬耳を疑う。
朧げな記憶を頼りに知っ [以下繰り返す]


そういうわけで、アレクは大変な日本好きであった。

いつも使っているメモ帳は浮世絵柄。
内容を拝見させてもらうと、和風な図案がびっしり。
  
ある時はひな祭りについて語り。
ある時は「今日はジムウーの日だね。ジムウーについて教えてくれ」と言われた。

「ジムウー?何それ?」
「人だよ!日本の皇帝!」

ん?
聞きなれない単語に一瞬耳を[以下繰り返す]


ああ・・・神武天皇のことか・・・
(ロシア語発音で‘う’は深い音になるので、伸びてしまう。)

まさかロシアで神武天皇について聞かれるとは。
そう、建国記念日について彼は話していたのだ。


そういうわけで、うんちく好きな私の無駄知識をフルに活用してきた。
(といっても神武天皇についてはほんの僅か。)
変な知識は教えられないと思いGoogle先生で調べ、それを伝えると嬉しそうにニンマリとして去っていった。


ロシアの日本好きな人は、思いもよらない言葉が出てくるので大変興味深い。



しかし一般ロシア人の日本に対するイメージはスシ、フジ、サムライ、ハラキリ、ニンジャ。

スシもフジもいいとして、 サムライって・・・ニンジャって・・・あなた、もういませんよと言ってやりたくなる。

しかしロシアで有名な本屋『Дом книги』 の日本書籍コーナーに行って、なるほど納得。


最新刊といえば、村上春樹の1Q84。
(外国でおそらく一番有名な日本人作家。アゼルバイジャン出身のクラスメートも読んだことあると言っていた。)

それ以外は、源氏物語。侍についての本。忍者についての本。
(昭和な香りを感じる)日本の説明本などなど。
そりゃあ、しょうがないか。


かく言う私も、ロシアに来る前は、プーチン大統領でスパイで寒くてロシア帽かぶってコサックダンス踊ってウィスキー飲んでるイメージだったもの。

・・・ってあれ?
コサックダンス以外あってる。



ロシアはいつでもロシアなのでした。




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